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東京地方裁判所 平成9年(ワ)5129号 判決 1998年3月25日

原告

株式会社エーティーシーアカデミー

右代表者代表取締役

村田修一

右訴訟代理人弁護士

松村彌四郎

被告

株式会社ネクスト

右代表者代表取締役

菊地宏

右訴訟代理人弁護士

山崎馨

秋山清人

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告から原告(訴外財団法人国際伝統文化交流協会承継人として)に対する、東京地方裁判所書記官が平成八年一〇月三〇日に付与した執行文の付された同裁判所平成七年(ワ)第二三三一一号建物明渡請求事件の判決正本に基づく強制執行は、これを許さない。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

被告と訴外財団法人国際伝統文化交流協会(以下「訴外財団」という。)との間には、東京地方裁判所平成七年(ワ)第二三三一一号建物明渡請求事件(以下「本件建物明渡請求事件」という。)についての確定判決(以下「本件判決」という。)があり、右判決は、訴外財団に対し、別紙物件目録記載一の建物(以下「本件建物」という。)を被告へ明け渡すよう命じている。ところで、本件建物については、平成七年一〇月五日、被告を債権者、訴外財団を債務者とする同裁判所平成七年(ヨ)第四八六二号不動産仮処分(占有移転禁止等)命令申立事件(以下「本件仮処分申立事件」という。)につき、その旨の命令に基づいて執行がなされていたところ、被告は、平成八年一〇月二一日、同裁判所の裁判所書記官に対し、原告が右執行後に訴外財団から本件建物の占有を承継したとして、原告に対する強制執行のため承継執行文の付与を申請し、同月三〇日、同裁判所民事第三七部裁判所書記官橋本聡は、原告を訴外財団の承継人とする執行文(以下「本件執行文」という。)を付与した。

二  争点

1  本件執行文に基づく強制執行の完了の有無。

(原告の主張)

(一) 原告は、いずれ占有回収の訴え若しくは賃借権確認の訴えによって、本件建物に再入居したいと考えているが、この場合なお本件執行文に基づいて強制執行が行われる余地があるから、執行は未だ完了していないものというべきである。

(二) 平成八年九月一一日以降、本件建物は訴外株式会社オービーシー(以下「訴外会社」という。)が占有しているから、たとえ原告に対する明渡執行が完了していても訴外会社に対する執行行為は完了していない。

(被告の主張)

本件執行文に基づく強制執行は、平成九年一月二二日に終了している。

2  原告は訴外財団の承継人であるか否か。

(原告の主張)

本件建物について、本件仮処分申立事件につき、命令が執行された平成七年一〇月五日においては、訴外財団はすでに設立許可が取り消され、訴外村田修一が「チャイニーズネットワーク高田馬場」を経営するなどして独立の占有を有していた、したがって、右仮処分命令は、当時の占有者の認定を誤ったものであるから、これを前提とする当事者恒定の効力は生じないものというべきである。原告は、本件建物明渡請求事件の口頭弁論終結前である同月二〇日、右仮処分の執行について善意で村田から本件建物の占有を承継したものであるが、右仮処分による当事者恒定効が及ばないから、原告は訴外財団の承継人ではない。

(被告の主張)

右仮処分命令が執行された平成七年一〇月五日時点の本件建物の占有者は訴外財団であり、原告はその後の占有者であるから、訴外財団の承継人というべきである。

第三  争点に対する判断

一  争点1(強制執行の完了の有無)について。

1 執行文付与に対する異議の訴えは、執行が完了し、執行力ある債務名義の正本に表示された請求権が全部満足された後は、訴えの利益を欠き、不適法として許されないものと解すべきところ、証拠(甲一、二、乙五、七の1、2、八の1、2)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件判決は、本件建物のうち、別紙物件目録記載二の住居部分(以下「本件住居」という。)が訴外金学根(以下「金」という。)と訴外財団との共同占有にかかるものであり、本件建物のうち本件住居を除いた部分(以下本件住居外建物部分」という。)が訴外財団の単独占有にかかるものであるとの認定のもと、前記のとおり訴外財団に対し本件建物を被告に明け渡すよう命じるほか、金に対し本件住居を被告に明け渡すよう命じている。

(二) 被告は、本件執行文を得た上で、原告及び金を債務者として本件建物の明渡執行を申し立てた(東京地方裁判所平成八年(執ロ)第二二八一号及び第二二八二号事件)。

(三) 右執行申立てに基づき、東京地方裁判所執行官君島二三男(以下「君島執行官」という。)は、平成八年一二月九日午後一時五分より、被告代理人である秋山清人(以下「秋山代理人」という。)、原告代表者代表取締役村田修一(以下「村田」という。)及び金の立ち会いのもと、本件建物の同一性、占有状況を調査した。その際、君島執行官に対し、村田は、本件住居外建物部分は原告が原告の学校の教室、事務所として使用しており、他に占有者はいない旨述べ、金は、本件住居は金がその家族と居住して使用している、他に占有者がいない旨述べた。君島執行官は、右説明と現場の状況に基づき、本件住居外建物部分を原告の、本件住居を金の、それぞれ直接占有にかかるものと認めた。次いで、君島執行官は、明渡執行を妨げる事由がないものと認め、執行に着手し、本件建物内に存在する目的外動産の品目、数量等を調査し、その搬出、運搬、保管に必要な作業員、梱包資材、運搬車両等の見積もりをなした。被告は、君島執行官に対し、原告及び金の明渡義務の任意履行に期待し、また、目的外動産の搬出、運搬等の準備のため、同日の手続きを右の程度にとどめ、平成九年一月二二日に続行するよう求めたので、君島執行官はこれを相当と認め、午後二時一〇分をもって執行手続きを続行し、次回期日を平成九年一月二二日と指定し秋山代理人、村田及び金に対し、その旨告知した。

(四) 秋山代理人と村田及び金とは、平成八年一二月九日以降平成九年一月一四日ころまでの間、本件建物の任意の明渡し交渉を行なった。

(五) 君島執行官は、平成九年一月二二日午後二時五分より、秋山代理人、村田及び訴外黒澤智弘の立ち会いのもと、本件住居外建物部分の占有状況を平成八年一二月九日時点の占有状況と同一と認めたうえ、本件住居外建物部分に存在する目的外動産を作業員に搬出させ、原告の本件住居外建物部分の占有を解いて、これを被告に現実に引き渡した。ところが、搬出した目的外動産は原告が受領を拒んだため、君島執行官から原告に引き渡すことができなかったので、君島執行官は、これを執行官保管とし、秋山代理人に保管を委託した上、原告に対し、右目的外動産を平成九年二月三日までに引き取ること、同日までに引き取らないときは、平成九年二月五日午前一一時にせり売りの方法により売却することを告知し、平成九年一月二二日午後三時五五分執行手続きを終了した。

2  右1、(一)ないし(五)の認定事実によれば、平成八年一二月九日の執行期日から平成九年一月二二日の執行続行期日に至るまでの間、本件建物のうち本件住居外建物は原告が、本件住居は金が、それぞれ直接占有していたものと推認される。

なお、原告は、前記のとおり、平成八年九月一一日以降、本件建物は訴外会社が占有している旨主張し、甲二五には、訴外会社が平成八年九月一一日より原告が本件建物において営む日本語学院の経営にあたる旨の原告と訴外会社間の同月一〇日付の合意が記載されており、これは、原告の右主張を裏付けるように見えないではない。しかしながら、一方、甲二六には、訴外会社が平成九年一月二三日から右日本語学院の運営及び事務引継を行う旨の原告と訴外会社間の同月一〇日付の合意が記載されており、同記載によれば、甲二五の記載にもかかわらず、むしろ原告から訴外会社への日本語学院の引き継ぎは平成九年一月二三日に至るまで行われていなかったことが認められるので、甲二五は前記推認を覆すに足りないものというべきである。

3  そこで、以上の事実を前提に本件判決を債務名義とし、本件執行文に基づく原告に対する強制執行が完了しているか否かにつき検討する。

本件住居外建物部分については、平成九年一月二二日の執行続行期日において、原告の占有が排除され被告がその占有を取得したものであるが、本件住居については、同期日において本件住居の明渡執行が完了したか否か、また、同期日の前後に任意の明渡しが行われたのか、あるいは現在も明渡しが行われていないのか、一件記録上明らかではない。

しかし、右2に記したように、本件建物のうち、右期日の時点において原告が直接占有していたのは本件住居外建物部分のみであったと認められるから、本件住居外建物部分の明渡執行の完了をもって、被告の原告に対する明渡執行の程度としては、もはや本件判決に基づくものとしてなしうる残存部分はなく、したがって、原告に対する関係では執行を完了したものというべきであり、同期日の時点において原告が本件住居につき間接占有を有していたか否か、また、本件住居につき金に対する明渡執行が完了しているか否かは、右の結論を左右するものとはいえない。

なぜならば、建物明渡しの強制執行においては、執行債務者の当該建物に対する占有を強制力に基づいて排除し、執行債権者にその占有を得さしめるのが趣旨であるから、その対象はあくまで直接実力行使の目標たるに適する現実の支配すなわち直接占有にあることは明らかであって、間接占有は強制執行の対象ではなく、したがって、建物明渡しの債務名義に基づく特定の執行債務者に対する強制執行の完了の有無は、当該執行債務者の直接占有にかかる建物部分について当該執行債務者の占有を排除して執行債権者がその占有を取得したか否かにより判定すべきものであり、仮に当該執行債務者の間接占有にかかる建物部分が存在し、かつ、当該建物部分について直接占有者に対する明渡執行が終了していないとしても、当該執行債務者に対する明渡執行の完了の有無の判断に影響するものではないからである。

以上のとおり、本件建物のうち原告の直接占有にかかる本件住居外建物部分については、平成九年一月二二日、原告の占有が排除され被告がその占有を取得しているから、本件判決を債務名義とし本件執行文に基づく原告に対する強制執行は同日をもって完了したものというべきである。

4  なお、原告は、原告がいずれ占有回収の訴え若しくは賃借権確認の訴えによって、本件建物に再入居したいと考えているが、この場合なお本件執行文に基づいて強制執行が行われる余地があるから、執行は未だ完了していない旨主張する。

しかしながら、原告の右主張は、まさに本件執行文に基づく強制執行によって原告が本件建物の占有を失ったことを前提としており、また、別訴による再入居の可能性は右強制執行の完了の有無とは無関係である。

したがって、原告の右主張は主張自体失当として排斥を免れない。

5  また、原告は、平成八年九月一一日以降、本件建物は訴外会社が占有しているから、たとえ原告に対する明渡執行が完了していても訴外会社に対する執行行為は完了していないので、本件判決に表示された請求権は満足されていない旨主張する。

しかしながら、執行文付与に対する異議の訴えが適法なものとして扱われる時期を画する「執行行為の完了」の有無は、あくまで右訴えを提起した執行債務者に対する執行行為について判断されるものであって、執行債務者以外の者に対する執行行為の未了を理由として右訴えの適法性を基礎付けることはできない。

したがって、原告の右主張も主張自体失当というべきである。

二  以上のとおりであるから、本件判決を債務名義とし本件執行文に基づく原告に対する強制執行は既に完了したものであり、本件執行文の付与に対する異議の訴えの利益はないので、原告の本件訴えは不適法なものというべきである。

よって、争点2につき判断するまでもなく、本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官永吉盛雄 裁判官若林弘樹 裁判官松井信憲)

別紙<省略>

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